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お父ちゃんの記憶。

最近お父ちゃんのことをよく思い出す。
なんでかな、病室にいることが多いからかな。

私のお父ちゃんは、私がまだ小学校の低学年の頃から、よく入院していた。
家が商売しているのと、小学三年生のはじめまで登校拒否しがちだったので、私はよく病室に預けられていた。
六人兄妹の五番目なのに、ほかの兄妹が一緒に病室にいた記憶がほとんどない。多分お父ちゃん子だったんだろう。

家でも一人でそうしていたように、病室の小さなテーブルお絵描きをしたり折り紙をしたりしていた。
出来上がるとうれしくて、いつもお父ちゃんに見せてた。
無精髭のちくちくしたのにすりすりするのが大好きで、いつもすりすりしていた(笑)これはたぶん、今でも好きだ(笑)

アルコール依存だったお父ちゃんは、断酒のため何度も入院して、何度も病院を抜け出して、たまに大きな病気で手術をしたりして、なんだか私の記憶の半分くらいは病院にいる。

中学生くらいの頃からは、おとうちゃんは自宅の部屋でほぼ寝たきりになった。私は思春期というやつなのか、昔のようにお父ちゃんのそばには行かなくなっていた。
でもお菓子を焼いたりすると、なぜかお父ちゃんに食べてもらいたくって、部屋まで持って行っていた。
酒好きのお父ちゃんが甘いもの好きだったかなんて、そんなことはきっとないんだろうけど、多分喜んでくれていたんだとは思う。

そんなお父ちゃんが教えてくれたのは、花札くらい。
家族旅行というか、お店の慰安旅行には行っていたけど、一緒に遊んだ記憶も無くて、お父ちゃんの笑っている顔も思い出せないでいる。

でもずっと忘れないのは、お店の台所でお酒を飲みながら作ってくれた鯛のあら汁とイワシのつみれ汁。あと、梅干しの中の天仁さんの味。お父ちゃんが梅干しの種を歯で割ってくれた。梅干しは酸っぱくて苦手だったけど、天仁さんは大好きだった。
鯛のあら汁もイワシのつみれも、子供の味覚には渋すぎて、見た目はグロくて(笑)そんなに好きでは無かったけど、食べ物に苦労したといつも話していたお父ちゃんが、私たちにお腹いっぱい美味しいものを食べさせたいと、いつも腕をふるっていた。
今食べたらきっとものすごく美味しいだろうな。そんな風に思える大人の味だったと思う。

今も時々食べたくなる、お父ちゃんの味。
味の記憶ってすごいな。

昨日、こっそりパンを焼いて、ナースステーションの看護師さんたちに差し入れをした。
いつも岡田さんに付き添っているなぞの女の私だったろうから、ご挨拶がてらに(笑)
そしたら今日から看護師さんたちの対応が違う(笑)…気がする。

食べ物の力ってすごいな(笑)
っていうか、ちゃんと手作りしたものの力なのかもなぁ。

お父ちゃん、何の因果か私も食の仕事をしているよ。
美味しいこと、誰かを思って作ること、感謝し、感謝されること。
そこに笑顔が生まれること。そして誰かと繋がること。
いろんなことを学んでいるよ。

生きている間にパンを食べてもらうことは出来なかったけど、今お父ちゃんの代わりにほんとうにたくさんの人が私のパンを食べてくれてるよ。そしてありがたいことにもっと食べたいって言ってくれているよ。
そういえばこの前、お墓参りのときパンをお供えしたね。食べてくれたかな。そういえば甘いパンばかりだったから、もうちょっとお酒に合うパンを持って行けば良かったね。でもきっとお父ちゃんは喜んでくれただろうね。お父ちゃんの笑った顔が思い出せないけど、今はいろんな人の笑った顔を思い出せるから、いろいろ重ねて、想像してみることにするよ。

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コメント

こんばんは

ふじっこさんが書かれた言葉
「今も時々食べたくなる、お父ちゃんの味。
味の記憶ってすごいな」

私も忙しい合間に作ってくれた男料理を今でも思い出します。
そして今も食べたいな!って思います。

今度、私もお父さんとお母さん、おばあちゃんの墓参りに行く時に自分の好きな物を作って持って行きたいなって思いました。

天国で食べてくれるかな~。。。

投稿: 鳥 | 2008年11月16日 (日) 04:18

何か久し振りに父さんの事を思い出しました。よく「着る服に不自由しても、食べ物には不自由させやん!」って言ってました。今思えば、不器用な親の愛だと感じています。やたらカレーを作っていた記憶しかないけど、また食べたいなー!ふじっこパンも食べた人の味の記憶に残るパンを今以上に焼いて下さい、やすみやすみで。でわまた、顔だします!

投稿: けんたろう | 2008年11月27日 (木) 19:35

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